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REPORTS

Special Issue

アセアン、そしてマレーシア:マレーシア建築リポート

長谷川 由紀夫
建築家。
1965年生まれ。
6年間の陸上自衛隊勤務を経て、アメリカ・オクラホマ州立大学、工学部建築意匠課に入学。同大学卒業後、アメリカKPF(コーンペダーソン&フォックス アソシエイツ)、HOK(ヘルムース•オバタ•カッサバウムインク)を経て鹿島建設、設計・エンジニアリング総事業本部に入社。2004年からマレーシアにてHXA(ハセガワ&ザビエルアソシエイツ)を主催。
著書、東南アジア建築逍遥(鹿島出版会)
いま注目すべきマーケット:アセアン 

東南アジアの10カ国からなる東南アジア諸国連合(通称アセアン)。今、アセアンは、アメリカ合衆国や日本をはじめとする先進諸国に注目されている経済圏である。今まで“安価な労働力”の国々として見られていたアセアン諸国は、2008年のリーマンショック以降、成長の期待される“消費国”として重要視される市場となった。アセアン諸国の2012年実質経済成長率は、ほぼ先進国といえるシンガポールとブルネイを除けば軒並み5%近くあるいはそれ以上の数値を表しているし、人口も増加している。加えて“世界の工場”として多くの日本企業が進出している中国との国交関係が不安定になり、多くの日本企業が中国からアセアン諸国に工場の拠点を移す動きも見られている。近隣諸国であるアセアンは今後、経済及び技術面で日本とさらに密接な関係になるであろう。

この事実は、日本の建築・建設分野にも大きなチャンスがあることを示している。経済が安定的に成長し、先進技術が求められているという事実以外に日本の企業がアセアンとのビジネスチャンスがある理由として私は3つの点を挙げたい。

まず1点目は、アセアン諸国はほぼ全ての国々が日本に友好的であることだ。歴史的にはマレーシアなど日本に侵略された国もあるが、ビジネス的には殆どの人々が日本に友好的な感情を持っている。これは、国家レベルでも個人レベルでビジネスを行っていくうえでもとても大切なことである。

2点目は、距離が近く時差があまりないことだ。通信技術の進歩で世界はとても近くなったが、それでも距離、時差は大きなファクターになり得る。特に時差に関してはインターネット回線の普及とともにリアルタイムな対応が今まで以上に求められるようになってきている。現場からイメージが送られ今すぐ対応を迫られるケースは日本国内でも同じであるが、この点において日本は地理上、欧米諸国に比べてアセアン諸国との時差が少ない位置にあることが、今後さらにメリットとなってくる。

3点目としては、アセアン諸国の建設技術がまだまだ発展途上であるということだ。そういう意味で日本はデザイン力だけではなく新しい建材や工法の提案など総合的な面でマーケットを見出せるだろう。経済格差の面から価格的に検討しなくてはならないこともあるが、安定した経済成長を続けるアセアンは今後期待が持てるマーケットとして成長していくだろう。

マレーシア:複合民族国家が国際社会でメリットになる 

マレーシアは、アセアンのなかで地理的には中心となる位置ある。マレーシアはよく“影の薄い優等生”とアジアの中で表現されるが、比較的紛争を好まない国の性格から一般的に温和な国としてみられている。イスラム系マレー人、中華系、インド系そして原住民系という様々な人種が調和して国家を形成しているマレーシアは、単一民族国家の日本から来た私には学ばなくてはならないことが多い国だ。今までは、“混合のジレンマ”と言われていた複合民族国家は、経済の国際化が進む現在、大きなメリットと変化している。同一民族とのビジネスを好む中国やインドとの経済交流も安定して行われているし、イスラム国である故に中東との関係も良好だ。そして、外国人にとって大きな利点の一つは、ビジネスの世界で英語が使用できるということにある。会議や文書などはほとんど英語が使用されている。

また、インフラの整備整っていることも建設ビジネスを進める上では大きな安心要素である。道路整備や電力供給など基本インフラはアセアンの中でも整備が進んでいる国である。人件費はアセアンの中でも比較的高いため、生産供給の国としてインドシナの国々やインドネシアに比べて今後のポテンシャルは低いかもしれないが、消費のマーケットとしては、将来多いに期待の持てる国である。

マレーシアの建築プロセス 

私は、アメリカ合衆国、日本、マレーシアで建築家として建設に従事してきたが、建築のプロセスは大きな意味では各国あまり相違がないというのが基本的な私の結論だ。マレーシアにおいての許認可のプロセスとしては開発確認申請があり、その後建築確認申請がある。建築物完成後には竣工検査があるのも日本と同じだ。許認可を行うのがどこの機関かという違いはあるが提出する図面内容もさほど日本と違いはないと考えてよい。実際、当社では確認申請図面は日本で使っていたフォーマットを使用しているケースもある。(Diagram-1参照)

Diagram-1

建築法規に関しては、日本の建築基準法に該当する法規書(英文)がある(UNIFORM BUILDING BY-LOWS 1984 (G.N.5178/85) 。この法規書はマレーシアの一般の大きな書店に行けば容易に見つけることができる。日本の建築法規に比べていたってシンプルで、セットバックや消防法の基本的な点を把握し、建築の安全を前提においた設計を心がければ大きな違いはない。図面に関しては全て英文、メートル(M)表示が基本になってきている。但し、確認申請の提出においては、マレーシアの建築家免許をもった設計会社が必要となるので現地の建築家とタイアップすることが必須条件となってくる。設計契約書に関しては、決まった書式はないが、通常欧米諸国の契約書に比べて至ってシンプルな場合が多い。日本の契約書もアメリカと比べるとかなり簡素だが、これはある意味で設計変更等に関して設計料の追加要請が出しにくいグレーゾーンが大きい結果とつながる。だから、設計契約であれ、建材の供給であれ、契約書はできるだけ詳細に明記できればそれに越したことはない。

設計フィーとその業務内容は、Architects (Scale OF Minimum Fees) Rules 1986, によって基準が設けられている。設計フィーは工事額によって細分化されているとともに、設計内容の難易度を3段階に分けて最低金額として明示されている。しかしながら施主からその最低基準よりも低い金額を要求されることも多々ある。また、支払いの段階ごとの支払いの割合も同書に規定されているが、支払いの割合を変更されたり、支払いが遅れることも多々あるようである。契約書に支払い記述や支払いが遅れたときの合意を明記していくことをお勧めする。また、同書には基本設計から完成までの業務内容が詳細に記述されているので、どの範囲を受注するのか、あるいは現地設計会社と共同設計の場合は作業区分をどのように分けるかフィーの分配とともに当初より明確にしておくことは必須となってくる。

文末にマレーシアの設計フィーと業務内容の規定をダウンロードできるサイト(英文)を明記しておくので参考にされたい。

上記に抜粋した設計・建築プロセスの中で私が大きく日本とマレーシアの違いを感じるのは建設現場においてである。ひとつ例を挙げると日本では、建築設計図と構造設計図に矛盾した点があれば現場管理者がその矛盾を指摘し調整することが多々ある。しかしマレーシアでは殆どの現場管理者は、構造図のみをみて構造体を作ってしまう。その結果現場に行ってみて柱と梁の位置関係が建築図面と合致していなかった失敗例を幾度も経験している。また、ディテールに関しても、現場管理者はあまり設計者の意図を汲もうという努力をしないように思う。あるいは、日本的な設計の考え方がこちらの常識では理解に苦しむのかもしれない。ゆえに設計者は現場とのコミュニケーションがより一層大切になってくる。

東南アジア、または後進国全般に共通していることと思われるが、あらゆる制度が先進国ほど守られていないこれらの国は、様々な面で日本のようには約束事が守られない部分もあることを想定したリスクマネージメントをしなければならない。

マレーシアマーケットへの進出 

さて、日本人として、あるいは日本企業としてマレーシアの建築マーケットに進出するにはどのようにしたらよいのだろうか? 設計会社で言えばマレーシアでは、実施を前提とした広く開放されたデザインコンペはあまりない。招待型のプロポーザル形式のコンペはあるが政府や企業と密接な関係をもった現地の組織系設計事務所に限られているか、国際的に有名な設計事務所を招待してのコンペが大きな開発で見られるくらいである。マレーシアに限ったことではないが、新しい国でマーケットを見いだそうとするならはじめはネットワークを作ることが大切だ。もし建築デザイナーで自社の設計力に自信があるのなら、現地の建築家協会(PAM)に直接連絡をとって、プレゼンテーションを協会内でさせてもらう提案をされてもよい。

建築家協会本部(クアラルンプール)だけでなくマレーシア内の13州にある協会支部にも連絡をとって地域的なネットワークを作るのも効果的である。特に地方の建築家協会は刺激を求めているので、作品のプレゼンテーションの提案を積極的に行えば喜んで対応してくれるだろう。私も過去にプレゼンテーションを行なったし、建築家協会の要請で日本の建築家をお招きする手助けもしている。

自社の建材を売り込みたいなら毎年6月ごろクアラルンプールで行われる国内最大規模の建築フェア(DATUM)でブースを借りて建材のプロモーションを行うのがひとつの始め方だ。その他に、環境建材のみに絞った展示会など様々な大規模な展示会が、年周期で行われているので出展したい製品の性質に準じた展示会を狙って出展することをお勧めする。

デザイナーであれ建材メーカーであれ、最初に大切なのはネットワークを広げていくことだ。その場で自分や製品を売り込むよりも、多くの人と話し、多くの人と連絡先を交換し、多くの人にその後連絡を取り続けることが重要だと思う。

興味のある方のために文末にマレーシアの建築家協会の連絡先及び建築フェアの情報を明記した。

私の場合、建築家として日本での設計を進めつつ1年半ほどかけて拠点をマレーシアに移した。やはり最初はなかなか本契約をもらうことができず、コンセプトデザインやプロポーザルを多く請け負っていきながら少しづつネットワークを広げて本契約に結びつくようになった。マーケット進出の前に自分の会社に熱意や体力が十分あるか分析した上で計画されることをお勧めする。

外国人建築家に求められているもの 

デベロッパーが外国人建築家を使うには、現地の建築家を使うよりリスクが伴う。コミュニケーションの問題や設計クオリティの観点の違いなど国内での常識が外国人建築家には通じない点がリスクを高める。実際に海外の建築家を使ったが、建築家の自我が強くてコストパフォーマンスを考えなかったため二度と使いたくないというデベロッパーの話も何度か聞いたことがある。そんなリスクがあるにもかかわらず、施主が外国人建築家を使う理由は何なのかを設計者の立場として十分分析して理解することが、仕事に結びつく大切な作業だと思っている。それには、(単純な回答だが、)他社より秀でた設計能力を持っているかにかかっているのではと感じる。それは、総体的な能力というより特化したな能力といってよいだろう。マレーシアでどのような能力、技術が求められているかと言えば、国際的な流れに違わず環境建築や質の高い建材・設備、そして如何にオペレーションコストを抑えた設計提案及び建材提案ができるかが求められている。環境建築のデザインであれ、商業建築であれ、自分のデザインまたは建材等の提案が、その開発にどのようなメリットを与えるのかを当初から明確に提示できることがとても重要である。

日本人のデザイン能力は世界的にとても良い評価を受けている。日本の経済が長い低迷を続ける中、アセアンに、そしてマレーシアにビジネスチャンスを模索する良い時期に来ているのではないだろうか。

参考文献:

世界国勢図会 第23版(2012/13) 公益財団法人 矢野光太郎記念会 編集・発行

UNIFORM BUILDING BY-LAWS 1984 (G.N. 5178/85) International Law Book Service 出版

参照サイト:

マレーシア国際建築会議
DATUM:KL 2012 International Architectural Design Conference

国際グリーーンテック&エコプロダクト展覧会
IGEM: International Greentech & Eco Products Exhibition

参考資料ダウンロード:

マレーシア建築家協会(PAM)の年間行事カレンダー (2013年)

マレーシアの建築業務(英文)

マレーシア設計料(最低設計料)参考チャート(英文)