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REPORTS

Special Issue

アジア建築の情報発信はアルカシア

国広ジョージ
国士舘大学教授
清華大学客員教授
アルカシア前会長(ARCASIA)
アメリカ建築家協会国際理事(AIA)
世界と繋がる 

日本の建築界にとって2011年はまさに歴史と記憶に残る年となった。3月11日に起きた東日本大震災と第24回世界建築家会議「UIA2011東京大会」開催により、世界中から注目を浴びた年であった。 この大会での国際交流を契機に、日本の建築家の海外への関心がより深まり、メデイアなどで感じた海外作品の印象を超えた領域にまで大きく広がったように感じた。 その海外の中で最も近いのがアジア他国であり、UIA東京大会を踏まえ、身近なアジア諸国との共生を強化すべき時代の到来を感じた。

歓談する槇文彦氏とパンゲストゥ観光・創造経済大臣

アルカシアとアジア 

「アジア建築家評議会という組織をご存じだろうか。英語では「Architects Regional Council Asia」と称し、頭文字を取って「アルカシア」と呼ばれている団体である。アルカシアはアジア地域の各国で組織されている建築家協会の連合団体を目指して1970年に発足した。当初は旧英国連邦建築家協会連合であるCAAからアジア勢が脱退し設立された。ちょうどその一昔前に起こった植民地独立運動の一環と位置づけられるだろう。すなわち、インドを筆頭に南アジア各国、シンガポール、東南アジア諸国の10カ国ほどが設立メンバーである。1980年後半から90年代に入ると中国、韓国そして日本と東アジア各国の建築家協会が参加し、現在では18ヵ国が加盟する、文字通りアジア地域を代表する建築家連合団体となっている。

「アルカシア」は急速に変化する国際社会の動向に対応して、2006年にはUIAと相互協力を目指す協定を締結している。また、近年の傾向であるUIA・地域組織間の協力体制を重視するとともに、ヨーロッパ建築家評議会(ACE)、アフリカ建築家連合(AUA)、ユーラシア建築家協会連合(MASA)などの地域団体との関係も樹立した。このことによりアジア在住の登録建築家は「アルカシアのネットワークによって世界と繋がっていると言えるだろう。

「アルカシア」の理念は「アジア地域の建築家職能団体を民主的に結び、友情と、知識、芸術、教育、科学上の絆を結び、建築職能の発展のために建築家の啓発、教育、及び社会における貢献を推進し、建築家の業務・地位の確立・浸透に向け活動し、建築環境における研究・技術的進歩を促進する」である。 21世紀に入り、アジア地域は世界から最も注目される国際経済の主たる市場となっている。「アルカシア はアジアの現況を踏まえ地域の建築家職能の確立を目指す啓蒙活動を展開しているが、それぞれの国家によって建築家法制度の状況に差異があり、アジア地域にはいまだ建築家法が制定されていない国家も存在する。そのため開発・建設業においての設計・監理の位置付けが不明確になっている。政治や利益指向のステークホルダー(利害関係者)による啓蒙不足が原因にあるように思える。

一方、建築家たちは建築技術の発展と建築文化の継承を意識しつつ、日々業務に携わっているが、「アルカシア」は国際地域社会においての情報シェアリングによる情報格差の軽減を目指し、そのための委員会活動及び公開プログラムによって、知識、情報交換を促進している。これらの活動を通して、「アルカシア」は過去40年、社会より信頼される建築職能を提唱し、アジア社会に貢献する建築家ネットワークづくりを推進してきた。

ACA-15の開会挨拶を行う

アジア建築家会議 

「アルカシアの情報発信は毎年夏から秋にかけてその年アジア各地で開催されるアジア建築家会議(ACA)である。隔年行われるACAと交互に小規模の「アルカシアフォーラム が開催される。アジアで重要な位置付けを持つアルカシア建築家会議では、最新のトレンド、時代の傾向、社会情勢などに対応する建築論を発表し、建築作品による問題提起など、建築家の職能を全面的に社会にアピールする。大会は学術性も考慮し、論文募集を実施し、アジア各地から新しいリーダーたちを発掘する。近年の「アルカシア建築家会議」開催テーマは、2006年の「推移するアジアの都市と建築」、2008年の「領域とその彼方へ:建築分野を超越した発信」、そして、2010年の「サステナブルな建築の新秩序」と続いた。そこで討論された内容は、エコ、文化遺産保存再生、都市と政治、新領域のあり方など21世紀のアジア都市に関連する多くの課題とテーマである。 2012年の10月末から11月初旬にかけて、第15回となるアジア建築家会議がバリ島ヌサデュアコンベンションセンターで開催された。メインテーマを「モダニズムの新たな挑戦:アジア都市と建築文化遺産の新パラダイム」とし、インドネシア大統領、観光大臣を主賓に迎えて開会された。基調講演には建築家槇文彦氏を迎え、槇氏は自身の建築論と作品を通してアジア建築文化を再考した。

私も会長として基調挨拶を行った。建築家の使命として、「職能の確立により発言の重みが社会に伝わり、環境問題、格差社会が引き起こす住居問題などに対して、建築家による提案が有意義で思考性に基づいたものであることにより理解が得られる」と発言した。そして、「アルカシアの活動はアジアが中心である同時に、アジアに囚われずに他の地域と連携して活動することが重要である」とグローバル社会とのネットワークの重要性をアピールした。

引き続きテイ・ケン・スーン氏が、資本主義社会の現況構造について批評し、人道的視点からサステナブル環境を提唱した。午後の部では分科会で設計、環境、都市環境のテーマで様々なプレゼンテーションが行われた。

基調講演者エミール・サリム教授を囲むアルカシア大会役員たち。サリム氏は20年以上にわたり、インドネシア情報、人材、開発大臣などを歴任。

アルカシア賞 

ACAでは、アジア最高峰のアルカシア建築作品賞の表彰が行われる。アルカシア賞は2年に一度授与されるため、審査は前年に開かれるACAより小規模のアルカシアフォーラム開催時に審査会が開催される。18カ国を代表する作品が各建築家協会から推薦され審査の対象となる。項目は広範囲にわたり戸建て住宅から工業化建築まで12カテゴリーを数える。今年度は日本勢が7作品金賞を受賞した。前田圭介氏の浮遊を促す住宅「アトリエ・ビスクドール」、北山恒氏の採光を重視した集合住宅「G−Flat」、中村勉氏のエコ建築「七沢希望の丘小学校」、郡裕美氏の古民家再生「カフェシエト」、木下昌大氏の機能的かつ合理的表現「JFEケミカル」、松尾一男氏のノアの箱船を連想させる「子羊の群れ・風の教会」、西村浩氏のまちづくりの一環となった「岩見沢駅舎」の七作品だ。このように日本の作品が毎回多数の受賞されていることは、日本建築界の高いレベルを示し、日本の建築の技術と感性は海外に誇れるものであり、日本の建築家の新たな国際展開が期待できることを示唆している。

第33回アルカシア理事会役員

アルカシア会長を経験して 
                   

今年のアルカシア大会は私が会長として2年任期の集大成の大会であった。JIAが1991年に正式加盟して20年あまりが経過したが、アルカシアはそれまで日本ではあまり知られていない国際団体であった。21世紀のアジア地域の繁栄を見通し、15年前ニューヨークにあった事務所を閉鎖し東京に活動拠点を移したが、当時の日本ではまだまだ建築家たちはアジアに対して関心を持っていなかった。私は1998年から日本建築家協会を通してアルカシア活動に参加し、また、大学においても研究テーマをアジアの都市と建築を中心とし、数々の海外調査を実施してきた。その功が実を結び、UIA大会にはアジアから多くの旧友,アルカシアの同志たちが来日しUIA大会参加誘致に貢献できたと思っている。

私は現在中国北京の清華大学で教鞭をとっているが、北京にいると21世紀の「アジアはじつに熱い」と痛感する。日本国内では建築家たちが活躍できる土壌は限られている。そのためUIA大会で広めたグローバルな視野で、自分が属する地域のクロスボーダー・プラクティスを目指すことを勧めたい。アルカシアで活動を始めて12年経つが、その間多くの仲間に巡り会えた。アジア諸国の建築家にとって日本建築設計界は魅力的であり、日本も他のアジア諸国の素晴らしい文化に魅了される。今後とも積極的お互いに理解を深め、交流を促進していく関係を堅持していきたい。