かつてはアンビルド・アーキテクトの代表格であったリベスキンドがデザインしたコンドミニアムが竣工し、コールハースのコンドミニアムが竣工間近、伊東豊雄のオフィスビル、ハディッドやヌーベルのコンドミニアム、 フォスターの複合施設が工事中。マイヤー設計の複合施設も先頃着工した。海外のタレントがデベロッパーによって招聘され、建築デザインがいわゆる“ブランド”として機能しているようだ。
これは2013年現在も年2-3.5%の成長を予想されているその経済の活況を背景に建築、建設ラッシュが続いているシンガポールの状況の一端である(*1)。シンガポールの建築家団体SIA(Singapore Institute of Architects)のMission Statementには“シンガポールを建築の都とすることを目指す”とあり、一見するとこの都に花が咲き誇ってきている。
かつてコールハースはシンガポールを「タブラ・ラサ(白紙還元)の実験場(*2)」と称し、常に壊しては作り替える、ということによってその存続を可能としている場所であると述べた。そのサイクルの中での百花繚乱状況が現在目の前に広がっている。
この活況のもう一つの背景に、政府による見事な都市計画上のコントロールがある。主体は URA (Urban Redevelopment Authority)-都市再開発局- である。開発関係の許認可を行うと同時に、都市景観や建築のあり方に大きな影響力を持つ役所である。その組織の意義は“シンガポールで居住し、働きそして遊ぶに相応しい場所にすること”とある。自ら公用地の売却を行い国土の効率的な利用を押し進め、また開発事業主体としても積極的に活動をしている。
そのような中で気になる話に触れた。世界で1,2位とランキングされるチャンギ国際空港の第4ターミナル新築に関して、“設計者は海外からに限定する、という空港会社の方針が出された”というのだ(*3)。これだけ建築が活況を呈し、新たな建築の都、というように取り上げられている中で、自国の建築設計者への評価は低いということなか。ふとエアポケットに落ちこんだような感じだ。
現在の建築の活況は、実はお金のあるデベロッパーが、物珍しさや話の種を作るためにデザインを売り物にした“商品”を出しているだけで、決して建築への理解が深まった結果ではなく、さらには文化として根付けようという潮流が無いのではないかという穿った見方をしたくなる。
シンガポール独自の建築とは何だろうと考えると、例えばトロピカルな気候や多民族国家、という特殊性に根差した建築の在り方が問われる機会が少ないように思う。建物の外装にはガラスが多用されながら外周にはアルミのルーバーを設置し日差しを防ぐ措置を施す。屋内は、一歩外に出たとたん眼鏡がぱっと結露をする程に冷やされる。決して気候風土やコンテクストが建築を決定付ける全てではないが、トロピカルの気候に対する答えが、エアコンだけというのは寂しい感じがする。様々な要素に富み、それを取り巻く状況は変化をしている。その中にあって俊敏にそして賢く対応をしていかなければ、シンガポールは置き去りにされてしまう。そして人々はそのことに気がついて(*4)、 この国は動き続け変わり続けなければ沈んでしまうと危惧している。そのよう中で如何にして建築を文化として根付かせていくのか、 どのようにシンガポール独自の建築を創りだす事ができるのかが大きな課題であると感じる。
建築家として業務を行うためには、MND の Board of Architects から認定を受ける必要がある。シンガポールには建築家の団体としてSIA(Singapore Institute of Architect) -シンガポール建築家協会-(*5) がある。SIA のミッションステートメントには“シンガポールを建築の都とすることを目指す”とある。登録されている中でも100名を超える規模の事務所はAEDAS, Architects61, CPG Consultants, DP Architects, Jurong Consultants, Ong & Ong, P&T Consultants, RSP Architects Planners and Engineers, Surbana International Consultants などが挙げられる。
近年はシンガポールの地の利を生かしインド、ミヤンマー、ベトナム等近隣の新興諸国でのプロジェクトを抱えている設計事務所が多くあるようだ。
また海外アーキテクトがシンガポールでのプロジェクトに関わる場合には、これらの規模の設計事務所と協働していることが多い。また構造、設備関係の事務所もARUP、マインハート等の国際的な 大事務所から小事務所までそろっている。
面積が小さく、天然資源にも恵まれていないシンガポールでは、様々な分野に渡ってクオリティーの高い人的資源を輩出することを大きな目標としていると同時に、海外からの才能を登用することにも積極的である。海外建築家の名前だけを見ると近代建築史の教科書に出てくる巨匠達が登場してくる(*6)。日本の設計者との関わりは比較的古くからある。海外からの建築家の参画には慣れており、ローカル事務所との協働体制を作ることは比較的易しいと感じる。
建物を建てる時の許認可の大きな流れは日本の場合と同様と考えられる。
という時系列で過程は流れて行き、それぞれの段階で図面他の情報を関係各役所に提出し、それぞれに許認可を受けることになる。全体的に電子化が進んでおり、図面の提出はWEB上でなされている。
この流れの中に最近は
が関わってくるようになった。
様々な許認可申請はQP( Qualified Professional)の名前によってなされる。通常これはそのプロジェクトの登録建築士あるいは資格を持った構造、設備エンジニアとなる。建築許認可のフローは以下のBCAのホームページを参照されたし。
http://www.bca.gov.sg/BuildingPlan/building_plan_submission.html
ここでは主たる許可に関係する省庁、部局を以下にあげる。関係する役所の目録からも大体の許認可の流れは類推していただけると思う。
1) URA (Urban Redevelopment Authority )
都市計画的な要素、開発関係の要素を受け持つ。用途や容積率、建ぺい率、建物のセットバック、高さ、あるいは敷地の切り盛り等
http://www.ura.gov.sg/
2) BCA (Building and Construction Authority)
建築の単体規定的なことを扱う。先に述べたGreen Mark の認定も管轄。
http://www.bca.gov.sg/
3) FSSD (Fire Safety and Shelter Department)
消防とシェルター関係を扱う。一般の住宅やコンドミニアムでも、基準に則って外部からの爆撃に備えてシェルター設置が法的に求められている。
http://www.scdf.gov.sg/content/scdf_internet/en.html
4) NPARKS (National Parks Boards)
緑化義務、既存緑地や樹木の保全 など
http://www.nparks.gov.sg/cms/
5) CBPU (Central Building Planning Unit)
上下水道、騒音など
http://app2.nea.gov.sg/anti-pollution-radiation-protection/central-building-planning/
6) LTA (Land Transportation Authority )
接道、駐車場附置義務など
http://www.lta.gov.sg/content/ltaweb/en.html
シンガポールの建設、建築の環境配慮への方向へ舵取りを目的とし、 2005年から導入された環境配慮設計の基準。基準項目は建築計画、使用材料、設備機器の性能、建物の運用、あるいは施工方法や工事環境の管理等にも及ぶ。建物の用途、新築/改築 その他いくつかのカテゴリーに応じ基準がある。規模あるいは建物用途によっては建築許可とも連動している。日本のCASBEEと異なるのは、完全に加点式になっていること。得点に応じて、プラチナ、金、銀、銅、等とクラス認定がなされ、それに応じて容積の割り増し、報奨金等のインセンティブも用意されている。またデベロッパーはその認定ランクを商品価値の一つとして売り物としている。
手続きの煩雑さや項目が多岐に及ぶこと等からグリーンマーク関係を専門にしているコンサルタントと別途契約し手続きを進めることが多いようである。
http://www.bca.gov.sg/greenmark/green_mark_buildings.html
2013年7月から容積対象面積が20,000㎡以上の建物は原則的にBIMのデータで、各種の許認可申請を行うことが求められることとなった。
http://www.bca.gov.sg/bim/bimlinks.html
http://bimsg.wordpress.com
建築のゼネコンは規模や国籍とり混ぜて、かなりの数がある。以下のBCAのホームページにて、独自の指標でグレード分けされたゼネコンが掲載させている。
http://bcadirectory.sg/index.php
日系の大手ゼネコンも進出しており、施工品質に対しての評判はこちらでも高い。そのため大規模なプロジェクトでは施主側からの入札参加の依頼がかなりあるようであるが、昨今の建設繁忙のため依頼を断るケースがままあると聞き及んでいる。
施工図をゼネコンが描くという習慣は、日系の会社の他には無いようである。施工図の作成を入札条件とした場合には、慣れていないため工事の初期段階に出て来た”施工図”は使い物にならず、こちらから側から施工図に慣れているスタッフを現場に通わせて描き方を指導する、というような局面もあった。日本での施工業者からの”手厚い”扱いに慣れている設計者であると、少し戸惑うかもしれない。
日系以外にいわゆる建築家設計による建物を手がけ、評判が良いのはWOH HUP, (シンガポールローカル) Dragages(フランス)等の名前が良く挙がっている。