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REPORTS

Special Issue

ミヤンマーからの建築リポート

長谷川 由紀夫
建築家。
1965年生まれ。
6年間の陸上自衛隊勤務を経て、アメリカ・オクラホマ州立大学、工学部建築意匠課に入学。同大学卒業後、アメリカKPF(コーンペダーソン&フォックス アソシエイツ)、HOK(ヘルムース•オバタ•カッサバウムインク)を経て鹿島建設、設計・エンジニアリング総事業本部に入社。2004年からマレーシアにてHXA(ハセガワ&ザビエルアソシエイツ)を主催。
著書、東南アジア建築逍遥(鹿島出版会)
アジア最後のフロンティア 

各国の空港に降り立つとその国独特の『匂い』がすると言う人がいる。韓国なら『キムチ』インドなら『カレー』といった先入観が空港に存在するあらゆるにおいの中から無意識に選択をしてその国の独特の匂いとして脳に認知させるのかもしれない。人生の半分以上を海外で過ごした私にとって『日本の匂い』は『畳』の匂いである。 ミヤンマーの空港に初めて降り立ったとき、なぜか私は『畳』の匂いを嗅いだような、懐かしい空気に包まれたような感じがした。心地よい国だと思った。

ミヤンマー人に親日家が多い。かつて先進各国が経済制裁をしていた際、日本がそれに加わらなかったことがひとつの要因であろう。また、素朴で温和な人が多く、つい最近まで軍事独裁政権が続き、国際社会から経済制裁を受けていた国に思えなかった。

ミヤンマーは『アジア最後のフロンティア』として、現在最も注目されている途上国のひとつである。2011年3月に大統領として就任したティン・セイン氏は、積極的に経済政策を推進し、民主国家へと方向付けた。ミヤンマーは最近、世界各国の様々なメディアに経済、政治、文化などあらゆる視点から頻繁にとりあげられている。
 ミャンマーの国民一人当たりのGDPは、アセアン諸国の中で最も低い国のひとつで、シンガポールの40分の1以下である。平均所得が低いため、人件費が高騰している中国に代わる世界の工場としてのポテンシャルが高い。ミヤンマーが世界から注目されている理由として、安い人件費のほか、豊富な天然資源にもある。サファイヤやルビーなどの高価な鉱物資源はもとより、良質な材木や石炭も豊富で、神様が最も恵みを与えた国とも言われている。
 ミヤンマーの建設産業の年間伸び率は2007年から10%を超えている。現在はインフラの整備や住宅開発がその大半を占めているが、今後は海外からの工場の誘致、海外投資によるホテルや観光施設の建設等、多岐にわたり建設産業の成長を促していくだろう。

地理的にも重要な位置 

労働力と資源に加えてミヤンマーが重要視されるもうひとつの理由がその重要性地理的位置にある。ミヤンマーは、南北にも長く伸びているが、インドネシアの西側に位置し、北東に中国、東にラオス、南東にタイ、西にバングラデシュ、北西にインドと国境を接している。
 自由貿易協定などでアセアン各国の経済連携が重要視される中、アセアン諸国北部から南部の陸続きの国々の交通網の建設は急速に進められている。陸上交通網はベトナム北部からマラッカ海峡を通過して大きく回らなければならない海路と比べ、時間の短縮と運搬費を大きく削減する面で大きな経済効果が期待できる。道路交通網はもとより、高速鉄道の建設で中国北部とシンガポールを結ぶ計画が進められている。また、ミヤンマーは、現在は発展が著しいインドと陸続きで接している唯一のアセアンの国としての重要性もある。ミャンマーは、アセアン、中国そしてインドというアジアの東西南北の経済圏を結ぶ重要な位置にある。

注目すべき3つの都市 

ミャンマーには経済的に注目すべき都市が3つある。ヤンゴン(Yangon) マンダレー (Mandalay)そしてネピドー(Naypyidaw)の3都市である。
 ミヤンマーの旧首都であるヤンゴンは、経済的に文化的に最も発展した都市である。私がヤンゴンを初めて訪れた時の第一印象は、なだらかな起伏のある地形をもつ都市であることだ。市内のいたるところにゆるやかな丘や谷があり、市内の西と東を南北に流れる川に挟まれている。そして市街地の中心部に大きな湖が二つ存在する。起伏のある地形のため、サンフランシスコのようだと表現する人がいるが、傾斜はそれほど激しくなく、私は東京の地形に似ている印象を受けた。美しい都市である。観光客を積極的に受け入れるようになったここ数年、ホテルや商業施設などの建築ラッシュと地価の高騰が著しい。
 マンダレーはミャンマーの北部に位置し、中国に近いミヤンマー第2の都市である。中国との流通が発展する中、とても重要な都市となってきている。今後、陸上交通網の発達とともにさらに重要性が増し、開発も急速に進められている。
 最後に注目すべき都市として挙げられるのは2003年に新しい首都として移転が行われたネピドーである。ヤンゴンとマンダレーの中間点に位置し、国家政府の中枢は現在ここに置かれている。インフラ整備が充分でないまま首都移転をしたため、現在様々な面で支障をきたしている都市ではあるが、今後の急速な発展が期待される。
 以上の3つの都市が経済発展上最も注目すべき都市であるが、その他にもユネスコの世界文化遺産に指定されているバガンや美しい海岸線なども今後観光産業の発展とともに開発が進められていくこととなるだろう。

発展へ向けての今後の課題 

ミヤンマーの現在の著しい発展には、天然資源に依存するところが大きい。今後は、生産施設の誘致や観光産業の発展など、外国資本による発展が期待されるだろう。ミヤンマーの今後の発展の課題として、インフラの整備、法の整備そして政治の安定などが挙げられる。
 インフラの整備としては、交通網の整備の他に電力供給の増強が性急な課題である。現在の電力供給量は需要の40%以下とされている。空港やショッピングセンターなどの施設で停電が一日に何度も起こる。市内の大きなビルの歩道沿いには様々なサイズの移動式発電機が置かれているのを頻繁に目にする。また、通信インフラもかなり遅れており、今後外国資本をミャンマーに引き込む上で最も大きな課題である。
 法の整備は現在急速におこなわれているが、投資する側から見ると、現在のミヤンマーの法環境は投資をするにあたっての不安材料である。外国投資法は最近施行されたばかりである。また、建築法規は存在しないに等しい。ミャンマーの利益を守るため、そして海外投資家や企業を守るため、様々な法の整備が必要になってくる。
 最後に政治的な安定の確立も海外投資家を引き寄せる上で大切な課題のひとつである。アウンサン•スーチ氏を象徴とする民主化が進んでいるミャンマーであるが、現在も政治の主要なポストはほとんど旧軍事政権時の軍関係者が握っている。2年後に総選挙を控え、どのように民主化が進められるかが世界に注目されている。

ミヤンマーの建築事情 

現在ミヤンマーの建設産業の伸び率は、2007年以来年間10%を超えている。現在はインフラの整備や住宅開発がその大半を占めているが、今後は海外からの工場誘致、ホテルや観光施設の建設等で多岐にわたり建設産業の成長を促していくだろう。ミヤンマーはフロンティアと呼ばれるにふさわしく、建築に関するあらゆる面で未開発である。先にも述べたように建築の基準となる法規は正式に文書化されたものはなく、海外の投資家によって建設が進められているホテルや商業施設などは、それぞれの母国の建築法規を参考にしているようである。セットバックや消防法などによる規制もない。建築計画に関しての規制と言えばヤンゴンでは、この都市の象徴といえる最も大規模な仏塔 (Shewe Dagon Pagoda) の周辺の範囲で仏塔より高い建造物を建ててはいけないという高さ制限があるのみである。
 また、投資家として建築計画に大きく影響を与える地価がここ数年高騰を続け、投資価値に見合わない状況になってきている。これは、ミヤンマーの多くの遊休土地が軍の所有となっており、軍関係者が高額で販売していることに帰する。ミヤンマー政府は、地価の高騰により投資の熱が冷めないよう、今後すべての公有地は政府機関(ミヤンマー投資委員会:Myanmar Investment Committee (MIC))を通して海外投資家が直接競売に参加できるようなシステムを作っている。今後の動向に注目したい。

建築家は何ができるか 

建築家にとってもミャンマーが魅力的なフロンティアであることは間違いない。多くの日本企業が注目し、投資を始めているミヤンマーで、今後日本の建築家が日本の企業とともにミヤンマーで活躍する機会が増えていくだろう。また、今後増えると思われる日本からのODAや円借款に絡んだ案件も建築、土木そして設備などの分野で、日本の技術者や専門家たちが貢献できるチャンスがおおいにある。都市計画•道路交通計画の推進や建築法規、建築条例の確立などの面においても、日本の持っているノウハウは大きな役目を果たすだろう。また、環境建築の推進も日本の建築家がこの国に貢献できる重要な項目のひとつである。

建築家としての積極的なアプローチ 

建築家は得てして施主からの機会を待つ立場に甘んずることが多い。投資家もミヤンマーの市場のポテンシャルを大きいと感じているが、どのように始めて良いかわからないでいる企業が多いということである。建築家は、ただ施主や投資家からの機会を待っているだけではなく、積極的に彼らにアドバイスできる知識を養うべきである。もし、読者が建築家で、ミヤンマーへの進出に興味を持たれているなら、まずはこの地を訪問されることを強くお勧めする。『フロンティア』は、開拓する意思のある人のみに与えられる場所なのだから。

ミャンマー情報:
国名
ミャンマー連邦共和国
面積
676,578平方キロメートル
人口
6,242万人(2011年)
首都
ネーピードー
言語
ミャンマー語、シャン語、カレン語、英語
政体
大統領制
年間GDP
531.40億ドル(2012年)
年間一人あたりGDP
854ドル(2012年)
GDP成長率
5.5%
<建設関連情報>
建設投資額
37.77万ドル(1988-2011:累件2件)
外資規制
建設工事をサービスの提供として請け負うだけであれば、新外国投資法及び同法施行細則は適用されず、会社法に基づく営業許可を受けていれば受注可能。 工事受注にあたっての現地法人設立義務づけはなく、DICAから営業許可を受けていれば受注可能である。
建築の資格・職能団体
Association of Myanmar Architects、Myanmar Engineering Society.
主な国内建設会社
国家計画・経済開発省
建設省
運輸省
鉄道省
各市開発委員会
主な設計事務所
Anshen+Allen(USA), Christopher Charles Benninger Architects PVT. LTD.(India), BENETON(Malaysia), Sugiura Architects Co., Ltd.(Japan), Preston T. Philips, Architect(USA),
主な建設会社
Asia Wrold Co., A-1 Construction, Max Myanmar Construction, UE Engineering, Chin Su Co., Ltd.(Myanmar), Yadanar Myaing Construction., Ltd.(Myanmar), Mandalay Cement Industries Co., Ltd.(Myanmar), FMI Garden Development Ltd.(Myanmar)
主な外国建設会社
SPA Elevators(vendor of Mitsubishi Elevators), Italian-Thai Developement