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COLUMN

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世界の街角で働くということ

英国建築設計現場の風景
山嵜 一也
英国に観光ビザで入国し500社以上の就職活動。貰った断りのレターは59通。留学ではなく働くことを求めて海を渡ったのはリアルな英国の風景を見たかったから。必要とされれば採用、いらなくなればクビ。多国籍チームでは多くの誤解も生じたが、そのムッとする瞬間こそが出発点。相手を拒絶していたら距離は縮まらない。英国のやり方すら通用しない。正解がない。答えは一つではない。相手を説得し、自分を納得させる。建設現場では小さなコミュニケーションの積み重ねで信頼を得るのだと肌で学ぶ。理解しようという覚悟。それは語学力とは別次元の話。仕事で使える言語能力は悔しい思いでしか身につかない。12年間で4度の解雇。英国建築設計現場の風景をお伝えします。
第9回 「本社から飛ばされた先で見つけた英国のもう一つの働く姿」

“Welcome aboard!”
「ご搭乗ありがとうございます」すなわち「ようこそわがチームへ」という内容のメールが届いていた。私は不安を抱えながら地下鉄駅プロジェクトチームに合流した。現場設計チームが間借りするエンジニアオフィスで新しいPCを設定し、メールを開くと本社の女性上司が私に気を使ってメールを送ってくれていた。チームメンバーにも私が本社を離れるのを嫌がったという話しが届いていたのだろう。そのPCには私の名前が大きく印刷された紙も貼られていた。私は3人目のチームメンバーとして加わった。

私たちの設計チームは駅舎や空港など交通建築施設を手がけるグループ内にあり、キングスクロスセントパンクラス地下鉄駅改修二期工事の設計と現場監理を担当していた。ハリーポッターの9と3/4番線ホームで多くの観光客が訪れるキングスクロス駅と欧州大陸と英国を結ぶ国際特急列車ユーロスターなどが発着するセントパンクラス駅という二つのターミナル駅を地下で繋ぐ駅である。またこの計画が完成すれば3つの国際空港を結び、2012年のロンドン五輪期間中には日本製の特急列車により会場まで数分で移動を可能にする欧州最大級のハブ駅にもなる。この二期工事では乗り換えの利便性を向上させようと北チケットホールとコンコースを新しくオープンさせる。

現場事務所の入居するエンジニアオフィスは世界中に支店を持つ大手企業だ。社員もエリートばかりだろう。鼻持ちならない連中がいるのかと思っていたが彼らは非常にスマートな集団であり、働く姿は真剣だった。電話口で先方とやり合っている姿はけんか腰だ。面と向かって言い合っている場面も見かけた。怒号、叫び、ため息。幅広い年齢層が居たからだろうか。静寂の中、マウスのクリック音だけが聞こえ、同世代が集まる設計事務所本社とは対極のオフィス空間が広がっていた。そして私はその喧騒が肌に合っていた。勤務先とは違う企業で過ごした現場事務所での時間は私に“英国で働くこと”に別の視点をもたらした。

同じフロアに居るエンジニアにはすぐに相談にいける。職人肌の彼らは簡単に相手にはしてくれなかったが、彼らと日々接することで効果的な質問を発する力と対話の技術が身に付いたと思う。本社から離れ、地下空間に再び戻るのかと落胆していたが、逆に言えばじっくり腰を据えて完成まで一つのプロジェクトに関われるのかも知れない。ものは考えようだ。私は腹を括った。

現場事務所に着任した当時の私のデスクからの風景。世界中から多くの人材が集まる中でもすぐに名前がわかるようにディスプレイにはネームプレートが貼り付けてあった。そこに私はニックネームである“ヤマ”と読んでもらおうと自分オリジナルのものも付けていた。

山嵜 一也 Profile
1974年東京都出身。芝浦工業大学院修了。レイモンド設計事務所を経て、2001年渡英。観光ビザで500社以上の就職活動。ヘイクス アソシエイツでワイカラー ビジターセンターでRIBA賞入選。アライズ アンド モリソン アーキテクツで欧州最大級となるハブ駅キングスクロスセントパンクラス地下鉄駅の設計現場監理。ロンドン五輪では誘致マスタープラン、レガシーマスタープラン、グリニッジ公園馬術競技場の現場監理。個人でもベネトン社店舗計画コンペファイナリスト。スイス家具メーカーのオークションで椅子パターン発表。芝浦工業大学 WEB型非常勤講師(2007-2012)。2013年1月に日本へ帰国。英国の建築設計現場について講演、執筆多数。ロンドン五輪計画についてのコラム「for Tokyo2020!」など。

山嵜一也 公式ツイッター ページ